『──だって、ここが世界で一番落ち着くんだもん』


耳を澄ますと、懐かしいあの声が聞こえる。

胸の鼓動が優しい音を奏でて、自然と足が急いだ。

──【第三音楽室】。

第三棟にあるその教室の前で足を止めると、古い木の扉を静かに開く。

一番に目に飛び込んできたのは、風に揺らめくアイボリーのカーテンだった。

次に視界に映ったのは静かに存在を主張する、真っ黒なグランドピアノ。

柔らかな陽の光に透ける栗色の髪、雪のように白い肌──。

目を閉じれば瞼の裏に映る【彼女】が、今もこの場所で微笑んでいる。