「だって、ソイツが断らなかったら、菜乃花は今頃、教卓の目の前の席になってたかもしれないだろ」
「うん……。でも私、嫌だから、ちゃんと自分で断ろうとしたよ?」
「うん。だけど、もしそこで、本当に菜乃花が断ってたら、ズルしようとした子と変に揉めたかもしれない」
「あの子と、私が揉める?」
「そう。菜乃花が席を譲らなかったら、ズルしようとした子は菜乃花が陸斗のことを好きなんじゃないか……とか、変な勘違いをしてたかもしれないってこと」
「え……ええっ?」
朝陽の言葉に、私はつい困惑の声を上げてしまった。
だって、どうして席を譲らなかっただけで、私が陸斗くんを好きだなんて勘違いをされるんだろう。
「そしたら、勘違いしたズル子が菜乃花に嫌がらせを始めたりしたかもな」
ズル子……。
言いながら朝陽は、一度開けたはずのカーテンを閉めて、私と同じようにカーテンの中に入ってきた。