「あの子と、"小さい頃は、こうやって手を繋いで歩くのも大変だったよな"って話してた。"俺は今では自分が手を繋ぎたいから、癖になってるフリして繋ぐけど"……って言ったら、あの子、呆れたように笑ってたけど」


まさか、私が見たのはそのやり取りだったなんて。

そんなこと、夢にも思わないし……真実を知ってしまった今、なんだか返事に困ってしまう。


「それと、階段で擦れ違ったときに菜乃花を無視したのは、今更だけど、ごめん。でも……あのときは俺も、余裕なくて。一瞬見えた顔がいつもと違って、もしかしたらアイツのために化粧なんてしたのか?とか思ったら、あんなガキみたいなことしてた」


「ほんとに、ごめん」と続けた朝陽を、やっぱり責めることなんてできない。

朝陽が言うアイツが誰なのかも、わかってしまうから。