* * *
「……なんだか、久しぶりだな」
第三音楽室に着き、扉を閉めた朝陽が真っ直ぐに向かったのはアイボリーのカーテンが揺れる窓際だった。
ゆっくりと彼のあとを追えば、不意にその目が私のことを捕まえる。
「菜乃花は、久しぶりって感じじゃないけど」
拗ねたような口調に、心臓が小さく跳ねる。
朝陽が今、何を言いたいのか──わかるからこそ、なんだかその顔を見ることが、できない。
「目、逸らすってことは何かやましいことでもあるんだ?」
「そ、そんなの……っ。朝陽だって、女の子と二人で一緒にいたくせに」
「は……?」
「み、見たんだから! 朝陽が、特進科の綺麗な女の子と仲良く手を繋いで帰るところ……私、見たもん」
つい、語尾が小さくなった。
朝陽からそっと目を逸らすと、あの日の光景が鮮明に頭の中に浮かび上がって胸の奥がズキリと痛んだ。
……放課後、朝陽が女の子と二人で学校を出て行くのを見た。
仲良く手まで繋いで……笑い合っていたのも、確かに見た。