「コイツは、アンタを想ってしか泣かない。俺のためには泣かねぇよ」


喉の奥から搾り出されたような声に、胸が震えた。


「コイツは最初から最後まで、アンタのことしか見てなかった」


真っ直ぐな目はひたすらに、朝陽へと向けられていてこちらを見ることはない。

私はただ、陸斗くんの言葉に耳を傾けることしかできなくて……息をするのも、やっとだった。


「そんなの……俺だって、そうだよ」

「……っ」

「俺だって最初から最後まで、菜乃花のことしか見えてない」


言葉と同時、唐突に右手が温かい手に掴まれた。

思わず視線を落とすと朝陽の手がしっかりと、私の手を掴んでいる。


「──菜乃花は、お前に渡さない」


凛と、通る声でそう言った朝陽は私の手を強く引いた。


「行こう、菜乃花」


そうして私を見て一瞬だけ微笑むと、そのまま真っ直ぐに歩き出す。

よろめきながらも精一杯彼のあとを追えば、大好きなシトラスの香りが鼻先を掠めた。

それに一瞬心臓が高鳴ったとき、不意に背後から声が投げかけられる。