……とりあえず、席に座ろう。

けれど、そう思った私が、たった今移動してきたばかりの席に腰を下ろそうとしたとき、突然、クラスメイトのひとりに、ポン、と肩を叩かれた。


「……ねぇねぇ、月嶋さん。私と席、変わってくれない?」

「え?」


ゆっくりと顔を上げると、クラスでも目立つグループに属する子が、長くて重そうな睫毛をはためかせている。

思わずキョトンと目を丸くして固まっていると、ベビーピンクに塗られた唇が、再び静かに言葉を紡いだ。


「……私、陸斗くんの隣がいいんだぁ」


内緒話をするように、私の耳元に唇を寄せた彼女だけれど……。

多分、席が陸斗くんには彼女の声が聞こえただろう。

もしかして……この子は陸斗くんのことが、好きなのかもしれない。

それで、陸斗くんの隣の席になりたくて、隣の席になった私に自分と席を変わってほしいと言っている。

……そっか。席替えには、"好きな人と席が近くなる"というドキドキもあるんだ。

私はそんなことを数秒考えてから、再び彼女へと目を向けた。