「わ、わ、私っ! 先に教室行くね!!」

「は? おい、なの──」


姿勢を正して彼の横をすり抜けた私を、困惑に染まった声が呼び止めた。

けれど私は振り返ることなく教室に向かう足を早めると、頭の中に浮かんだ言葉を無我夢中で掻き消した。

やめよう、もう。考えたら考えただけ、陸斗くんの顔が見られなくなる。

陸斗くんが私のことを好きなんて、それこそ痛い妄想だし、間違っていたら恥ずかしいどころの騒ぎじゃない。

全部、日比野さんの勘違いだ。

やっぱり、あの陸斗くんが私を特別に想ってくれているなんて……何かの間違いに、決まってる。


「あー、月嶋さん、おはよう! あれ? 今日はダーリン、一緒じゃないの?」

「ひ、日比野さん……」


だけど、そんなことを考えながら教室に着いた直後、事の発端でもある彼女に、とどめを刺された。


「ここのところ毎日一緒に来てたのにー。もしかして、夫婦喧嘩? っていうか、月嶋さん顔真っ赤だけど、どうして──」

「──ないっ! ほんとに、絶対ないからっ!」

「え、えぇ? なんのこと?」


顔を真っ赤にしたまま声を上げた私を、日比野さんが不思議そうに見つめていた。

結局、その日の午前中は隣の席の陸斗くんを意識せざるを得なくて……。

私は心の中でただ、早く今日の授業が終わることだけを願い続けた。