「う、ううん。リュージくんに声をかけられて、見に行くことになったの」
「リュウに?」
「そう。だから、今日も第三音楽室には行けないから……」
『放課後は、第三音楽室で待ってる』
それは陸斗くんが私のそばにいると宣言した翌日に言われた言葉だ。
あれから一週間が経とうとしている今、陸斗くんは毎日欠かさずに、放課後になると第三音楽室へと足を運んでいる。
かくいう私は、彼と二人きりになるのが心苦しくて、あれから一度も第三音楽室には行けないままだ。
教室ならまだしも、あの場所で二人きりになるのは……陸斗くんに抱き締められたときのことを思い出してしまい、なんだかとても落ち着かなかった。
「まぁ、菜乃花が来ても来なくても、俺は第三音楽室にいるけど」
「で、でも……」
「俺が勝手に、あの場所でアンタを待ちたいだけだから。別に、俺の勝手だろ?」
穏やかな声と微笑みに、胸の奥が針で刺されたようにチクリと痛んだ。
アンタ、と呼ばれたことで、彼と過ごして来た日々のことが鮮明に脳裏をよぎる。