「ありがとう、リュージくん。心配かけて、ごめんね」


そんなことをしても、ただ、リュージくんを傷つけるだけなのだ。

わかっていたのに、こうして行動に移すにはとても勇気が必要だった。

上田先生以外の、他の先生たちのように……相手と向き合うことから逃げてしまったら、きっと何も変わらない。

私は自分が身を持って感じていた痛みを、彼にも与えてしまうところだった。


「なに、言ってるんだよ」

「……え?」

「どれだけ感謝を伝えても足りないのは、俺のほうだ」


思いもよらない言葉に目を見開くと、リュージくんが切なげに睫毛を伏せる。


「俺はずっと、なのちゃんに勇気を貰ってた。いつも直向きで一生懸命な、なのちゃんのこと。誰よりも幸せになってほしいって、ずっとずっと、思ってたよ」

「リュージくん……」

「もちろん今も、思ってる。だけど俺は、いつの間にか……その、なのちゃんの幸せは、朝陽が叶えるものだと勝手に思い込んでたんだ」


──私の幸せを、朝陽が。

ほんの少しの間を開けて、短い息を吐いたリュージくんは、静かに笑う。