「ハァ……」
「月嶋さん、さっきから溜め息すごいねぇ。もしかして、荷物重たい? もう着くから、あと少しだけ頑張れる?」
斜め上から優しく微笑みかけてくれたのは、現国担当の上田(うえだ)先生だった。
今は先生に頼まれて、新書で入った本を図書室に届ける途中だ。
上田先生はこうして時々、私を呼んで小さな用事を頼んでくれる。
それは以前、数学の先生に課せられたような方法ではない。
必ずその時々に直接用事を頼んでくれて、更には目的を一緒に達成してくれるのだ。
「す……すみません、大丈夫です。というか、上田先生のほうが多く持ってくれてるし……寧ろ、先生のほうこそ重くないですか?」
大きな段ボールを抱える細い腕。身体も細くて綺麗な上田先生を見上げると、彼女は小さく首を振る。
「私は全然。こう見えて、案外力持ちなんだから」
再び口元に朗らかな笑みを浮かべた先生は、私を見つめて穏やかに目を細めた。
上田先生は、いつも私と他のみんなを平等に扱ってくれる。
私の持つ特徴に理解を示してくれて、その上で細やかな心配りをしてくれるのだ。
事情を知る他の先生たちの中には、明らかに私に何か用事を頼むことを避ける人もいる。