「俺は、引かないから」
有無を言わさぬ宣言に何か返事をしなければと考えているうちにチャイムが鳴った。
私達と同様、教室外に出ていた生徒たちが、慌ただしく廊下を駆けていく。
「……行くぞ」
言葉と同時に、彼は踵を返して歩き出した。
ゆらゆらと揺れる、栗色の髪。
私は段々と小さくなる彼の背中を、ただ呆然と見つめていることしかできなかった。
* * *
「ハァ……」
放課後の校舎に、今日何度目かもわからない溜め息が滲んで消える。
結局、今日一日中、色々と考えてみたものの、どうしたって答えは一つしか思いつかなかった。
陸斗くんに、朝陽の代わりなんてさせられない。
当たり前のことだけど、彼にこれ以上、甘えるわけにはいかないのだ。