「そん、なの……っ」
「は?」
「そんなの、絶対にダメだよ……!」
私は慌てて彼の手を離すと、その手を自分の胸元で握り締めた。
──昨日も私は、同じことを陸斗くんに伝えた。
泣いている私を抱き締めて、『朝陽の代わりにそばにいる』と言った彼に、私は確かに伝えたはずだ。
「何がダメなんだよ」
「だって、そんなことをしてたら、また同じことの繰り返しだよ……」
朝陽がいなくなったら、次は陸斗くん。
陸斗くんまで、これまでの朝陽のように、私に縛られてしまうかもしれない。
そんなの絶対にあってはいけないことだし、何より陸斗くんにとっても良くないことだ。
大切な時間を、私のために使ってなんかほしくない。
いつでも自分の心に真っ直ぐで、正直な彼らしくない選択に、私は戸惑いを隠せなかった。
「こんなの……陸斗くんらしくないよ」
「それでも、俺は本気だ」
けれど彼の言葉はいつだって実直に、私の心を貫くのだ。
昨日も聞いた言葉に、唇が震えた。
『言っとくけど、俺は本気だから』
昨日の私はその言葉を合図に鞄を手に持ち、一人、音楽室を飛び出したんだ。