「り、陸斗くん、ちょっと待って! なんで……っ?」
教室まで、あと十数メートルというところ。どうにか声を絞り出して再度彼の背中に問い掛けると、足早に動いていた足が、ようやく止まった。
「……なんで、って。菜乃花が来るのを待ってただけだろ」
「え……?」
「昨日、俺がそばにいるって言っただろうが。だけど俺は菜乃花の家までは知らないし、アイツみたいに……学校に一緒に来ることはできないから、とりあえず昇降口で待ってた」
思いもよらない言葉に、私は今度こそ目を丸くして固まった。
私を見る彼の目は真っ直ぐで、ほんの少しの苛立ちが滲んでいる。
……私を、待っていてくれた? 俺がそばにいるって言ったから?
陸斗くんの言うアイツとは、間違いなく朝陽のことを指している。
まさか陸斗くんは本当に、朝陽の代わりに、私のそばにいてくれるつもりなのだろうか。
今までの朝陽のように、私の犠牲になるつもりなの?