* * *
「つーきしーま、さんっ!」
その日の放課後、大量のメイク道具を抱えた日比野さんに、私は帰ろうとしていたところを捕まった。
以前、私が頼んだ『メイクの仕方を教えてほしい』という願いを叶えるために、わざわざ家から道具を持ってきてくれたらしい。
……あのときは、朝陽の理想に少しでも近付きたいと思って、日比野さんにお願いしたのだ。
だけど、朝陽と決別した今……私には、まるで必要のないことになってしまった。
「日比野さん、私、やっぱり──」
「あれから私なりに雑誌も読んで研究したんだ! どんなメイクなら、月嶋さんに似合うかって!」
「え……」
「それでやっぱり、月嶋さんにはナチュラルメイクかなぁって思ったんだよね。だから、お姉ちゃんに頼んで、いくつかメイク道具も借りてきちゃった」
あっという間に机の上へと道具を並べ、嬉々として語る日比野さんに、今更『必要ない』とは言い出せなかった。
そもそも、話を持ち出したのは私だ。
私が日比野さんにメイクを教えてほしいと言ったから、彼女はそれに応えようとしてくれているだけ。
今思えば、昨日──帰り際に、『明日、メイク練習しよう』と言われたときに、きちんと断るべきだった。
そのときも確か、同じことを考えたのだ。