「……追い掛けなくていいのかよ」

「……っ」

「なぁ、追いかけなくていいのか?」


繰り返された問いかけが、どこか他人事のようにも聞こえた。

──だって、追い掛けてどうなるの?

追い掛けても追い掛けても、届かない。

隣にいたいと願っても、それもきっと叶わない。

いつでも、遠い彼の背中を見失わないようにするだけで精一杯だった。

そうだ、私達は、もうずっと──。


「もう、いいの……」


きっと。もうずっと前から、いつか来るこの日を、心のどこかで覚悟していた。

いつか来る別れに怯えて、互いに声を押し殺していた。


「……菜乃花」


私の名前を呼んだ陸斗くんに、頷くことすらできなかった。

全身から力が抜けて、立っているのもやっとだったんだ。

いつの間にか雲に覆われた太陽は、行き場をなくして彷徨う私の心に大きく黒い影を落とす。

──サヨウナラ。

聞こえなかった言葉が耳の奥で木霊して、私の目からは涙が一筋、音もなく零れ落ちた。