「……偽善でも、いいじゃん」
「……っ」
「偽善の何が悪いの? 私は、自分を傷付けた相手のことを心配できる陸斗くんを、尊敬する。自分が一番可愛くて何が悪いの? そんなの別に、普通でしょう?」
思ったことをそのまま口にすると、陸斗くんは目を丸くして固まった。
陸斗くんはお兄さんから逃げた自分を責めるけど、それが当時の彼にできる最善の選択だったというだけだ。
ご両親もそう判断したからこそ、二人を引き離した。
だから陸斗くんは自分を責める必要なんてない。
だって、最初に彼を傷付けたのは、お兄さんなんだから。
誰でも自分が一番可愛くて、当たり前。
ねぇ、それの、何が悪いの?
「陸斗くんは偽善者でも卑怯でも、汚い奴でもない。陸斗くんはね、神様みたいな人だよ」
「神様……?」
「うん。陸斗くんは、私にとって神様みたいな人」
窓枠を掴む陸斗くんの手から、力が抜ける。
私の言葉に、彼は今度こそ目を見開いて固まった。
──神様みたい。
きっと、彼の耳には大袈裟に届いてしまっているだろう。
だけど私は、嘘なんて言っていない。
今も思ったから、正直にそれを口にしただけだ。
自分が傷付けられても、相手を想い気にかけている陸斗くんのこと……。
いつも真っ直ぐに、自分の言葉を届けてくれる彼のこと。
私の心を何度も救ってくれた彼のことを、私は本当に、神様みたいな人だと思ったんだ。