「普通じゃない、って思う。散々、痛め付けられたのに……時々こうやって、バカみたいに考えて。俺は自分で自分が、嫌になる」

「自分で、自分が……?」

「だって、今俺が言ったことは全部、ただの偽善だから。俺も母さんも……結局、兄貴から逃げたことには変わりない。俺は、口では心配してると言いながら、何もしないでここにいる。結局、自分が一番可愛いんだ。卑怯で、したたかで……そんな自分がすごく、汚い奴に思えて仕方がない」


──だから、俺はやっぱり普通じゃない。

続けてそう言った陸斗くんは、再び静かに空を見上げた。

ゆらりと、風に揺らめくアイボリーのカーテン。

私達の足元に落ちた光が、頭上に太陽が戻ってきたことを教えてくれる。


「……そもそも普通って、なんだろうな」


そっと声を落とした彼の指先は、頼りなく震えていた。

思わずその手に手を伸ばしかけて──手のひらを、ぎゅっと握った。

普通って、なんだろう。

とてもシンプルで、とても難しい質問だった。

きっと、分厚い辞書にも答えは載っていないだろう。

学校中にある本の中を探しても、見つけられないかもしれない。

この先、何十年生きたとしても、見つからない可能性もある。

それでも今、私が彼に言えることがあるとすれば──。