「だけど、安心したはずなのに……。ようやく兄貴から解放されたのに、あの日からずっと、考えるんだよ」


ゆっくりと、私に視線を戻した彼の綺麗なブラウンの瞳が、切なげに揺れている。


「兄貴、大丈夫かな……って。あれからどうなったんだろう、親父と二人で本当に大丈夫なのか……朝起きると必ず、一番に考えるんだ」


その言葉を聞いた瞬間、喉の奥が痺れて、思わず涙が零れ落ちそうになった。


「もう、今はどこに住んでいるかもわからないのに。前に家族で住んでた場所に行ったこともあったけど……そこにはもう、別の家族が移り住んでた」


私は必死に涙を堪えて、陸斗くんの声に耳を澄ませた。

お兄さんに手を上げられて、小学生だった陸斗くんはどれほど怖い思いをしただろう。

今でも、しっかり眠れないほど……陸斗くんは、深く、深く、傷付けられたはずだ。

それなのに彼は未だに、お兄さんと、お父さんのことを気にかけている。

ずっと、ずっと。彼は心の真ん中で、離れた家族の無事を、願い続けているのだ。