「それからどんどんエスカレートしていって、気がついたら、俺達家族ではもう、どうにも手が付けられなくなってた。それでニ年くらいが経った頃、両親が離婚して……。俺は母親に引き取られて、父親が兄貴を引き取ったんだ。なんか、相談に行った施設の人から俺達は引き離したほうがいいって言われたらしい。……兄貴、俺にも結構、手を上げてたからさ」
じわり、と。手のひらにも汗が滲んで、喉はカラカラに乾いていた。
以前、リュージくんに陸斗くんのご両親が離婚したことは聞かされていたけれど、まさかそんな理由だなんて思いもしなかった。
陸斗くんは実のお兄さんから、手を上げられていたのだ。つまり、暴力を受けていたということ。
まさか、そんなこと……今の彼からは、とても想像ができなくて、頭の中は、ぐちゃぐちゃだ。
「最初は、ようやく兄貴と離れられてホッとした。これでもう、夜も怯えながらベッドに入らなくて済む。夜更けに突然兄貴が部屋に入ってきて……理不尽に殴られることもなくなるんだって思ったら、心の底からホッとした」
──夜も怯えながらベッドに入らなくて済む。
陸斗くんが以前言っていた、"眠りが浅い"理由に今更になってたどり着いた。
陸斗くんは、未だに苦しんでいたのだ。
どこで寝ていても……その当時のことが身体に染み付いていて、離れないのだろう。