「その時、俺は……仮にアンタが普通じゃないなら、俺だってきっと普通じゃないって言ったよな?」
「え、と……」
「別に、忘れててもいい。でも俺は、確かに言った。確かに……今でも自分は、普通じゃないと思ってる」
──陸斗くんが、空を見上げる。
大きな雲が太陽を隠して、私達に僅かな影を落とした。
「……俺の両親、俺が小学生の頃に離婚してるんだけど。その原因が、兄貴の暴力だったんだ」
「え……」
突然の衝撃的な告白に、私は返す言葉を失った。
けれど陸斗くんは視線を空に向けたまま、目を細め……淡々と続く言葉を、紡いでいく。
「兄貴、昔から、めちゃくちゃ勉強できる人で。それで高校も、この学校の特進科を受験したんだけど……落ちて、それから少し、変になった」
ゆらゆらと揺れる新緑。土の上で踊る砂埃。
「それまでは本当に優しくて、自慢の兄貴だったんだ。小さい頃は虫とか草花のこととか、俺に色々教えてくれてさ。だけど、高校落ちてから引き篭もるようになって……。ある日、親父が無理矢理部屋の外に引きずり出そうとしたら、暴れ出した」
硝子の割れる音と、重なる悲鳴。
何故だか陸斗くんの言う光景が鮮明に思い浮かび、冷たい汗が背中を伝った。