……あの時、陸斗くんはどうして私を抱き締めたの?

二人きりになったら、そんなことを尋ねてしまいそうで怖かった。

だけどこの場所で、陸斗くんの顔を見たら何故か肩の力が抜けて、頭の中で考えていた難しいことは全部、消えてしまった。

ただ、二人。彼と並んで、彼といつもの景色を眺めていられる。


「……不思議」

「は?」

「すごく、不思議」


ぽつりと零すと、陸斗くんが不審そうに眉根を寄せた。


「陸斗くんと話してると、いつもたくさんの発見がある」

「発見?」

「私、初めてだったんだよ。誰かがそばにいるのに、勉強に集中できて……。誰かに見られていても気が散らずに、三十分以上机に向かえたの、初めてだった」


思い出すのは、陸斗くんと初めてここで過ごした放課後のことだ。

私は課題をやるために、机に向かった。

いつもなら、そばに誰かがいると気が散って集中なんてできないのに、何故かあの日は何も考えずに課題に集中できたんだ。