「まだ、七月も始まったばっかりなのにな。マジで暑すぎ」
「だから今日は、窓開けてるの?」
「ああ。暑くて、閉じたままにしてたら干からびる」
彼の隣に立って、窓枠に手を置くと夏の太陽が私を照らした。
風に揺らされたアイボリーのカーテンが一際大きく広がって、私達の姿を覆い隠す。
それが以前、ここで朝陽と過ごした穏やかな日々を思い起こさせて……胸の奥が、苦しくなった。
「……私、このカーテンの中に入るの好きなんだ」
「は?」
「だって、ここが世界で一番落ち着くんだもん。……でも、夏は暑いね。暑すぎて、なんだかこのまま溶けちゃいそう」
そっと目を閉じれば、瞼の裏では朝陽が呆れたように笑っている。
「アンタ、日差しに弱そうな顔してるしな。熱中症とかになって、倒れるなよ。迷惑だから」
けれどすぐに、今隣に立つ彼の声に私は現実へと引き戻された。
「でも、俺もこの場所は結構好きだ」
言いながら、そっと空を見上げた彼の綺麗な横顔をただ静かに見つめていた。
──あまりにも、普通だ。
想像していた以上に普通すぎて、驚く暇もないくらい。