「ご、ごめん。寝てた……?」
尋ねると、窓枠に手をのせた彼が小さく笑う。
「立ったまま眠れるほど、器用じゃない」
バカなことを聞いてしまった。
何か話さなきゃと思って慌てて口を開いたのは良いものの、立っている人に「寝てた」かどうか尋ねるなんて。
彼が窓の近くに立っているときは、大抵、何かを考え込んでいるときだ。
何を考えているのかは、わからない。
それでもいつも、陸斗くんは何かを考え込むように、どこか遠くを眺めている。
「……なんか、久しぶりだな」
言いながら、窓の外へと視線を戻した陸斗くんの背中を、私は静かに見つめていた。
夏服のシャツ、淡いチェック模様の入ったグレーのズボン。
着ている制服はみんなと同じはずなのに、陸斗くんが着ていると何故か何倍増しにも見えるから不思議だ。
初めて朝陽の制服姿を見たときにも思ったけれど……カッコいい人は、結局何を着ても似合うんだ。
神様は、やっぱりとても不平等だと思う。
神様なんているのかさえわからないけれど、もしいるなら文句を言ってもいいくらい。
「……最近、暑いね」
随分と延びた日を眺めるために、私は窓際まで歩を進めた。
開いている窓から迷いこんだ夏風が、手招きするように私のことを呼んでいる。