荷物を抱えたリュージくんの背中が資料室の中に消えていくのを、私はただ立ち尽くして見送った。

遠くで聞こえる野球部の掛け声と──吹奏楽部の、楽器の音。

一人、取り残された人気のない廊下。

ふと、隣に目をやれば、【第三音楽室】と書かれたプレートが目に飛び込んできた。

鼻先を掠めるのは大好きな、あの場所の匂いだ。

まるで何かに引き寄せられるように歩を進めた私は、古びた扉に手を掛ける。

そうして小さく深呼吸をすると、ゆっくりと目の前の扉を開けて、一歩中へと足を踏み入れた。


「──、」


扉を開けたと同時に、ふわりと風に揺れたアイボリーのカーテン。

存在を主張する、真っ黒なグランドピアノ。

その、視線の先──。綺麗なブラウンの瞳に射抜かれた直後、心臓が弾むように脈を打つ。


「……なんだ、アンタか」


彼の声が耳に届いた直後、私はそうすることが当然のように後ろ手で扉を閉めた。

いつの間にか、癖になってしまったみたいだ。

だって……扉を開けたままにしておくと、陸斗くんが怒るから。