「ねぇ、リュージくん。朝陽は──」
「うん?」
「……ううん、やっぱりなんでもない」
思わず言いかけて、言葉を止めた。
今も脳裏にはハッキリと、あの放課後の光景が焼き付いている。
しっかりと繋がれた手。親しげに寄り添う二人。
隣の彼女に微笑みかける、朝陽の横顔──。
だけど私には、朝陽を責める理由もないし、何より二人の関係を邪魔するわけにもいかなかった。
朝陽が誰と付き合おうと、誰に恋をしようと朝陽の自由だ。
何より私には、どうすることもできないのだから……。
「……っと、ここだ。なのちゃん、手伝ってくれて、ありがとな」
「あ……」
ぼんやりと考え込んでいた私は、リュージくんの声に現実へと引き戻された。
気が付くと私達は資料室に着いていて、顔を上げたと同時に手に持っていたケースが軽々と奪われる。
「それじゃあ、俺はこの荷物を置いたら図書室にも行かなきゃだから……。ここでバイバイでも、いいかな?」
「あ……うんっ! グループワーク、頑張ってね!」
胸の前でガッツポーズを作ると、リュージくんは嬉しそうに笑ってくれた。
結局、朝陽のこともあの女の子のことも、何一つ聞けないままだ。