「月嶋さん、さっきから溜め息ばっかり吐いて、どうしたの?」


体育館で、ぼんやりと宙を見上げていた私を日比野さんの可愛らしい声が呼んだ。

ハッとしてから振り向くと、緩く巻かれた髪がふわりと揺れて、花の香りが鼻先をくすぐる。


「あ……ごめんね、ボーッとしてて」


今は、体育の授業中だ。

二人一組になってバレーボールをするのだけれど、あのプリント事件以来、日比野さんを始めとした数名の女の子たちが、声をかけてくれるようになった。

クラスに話せる友達がいて、『ここにいていい』と言われるのはとても嬉しいことだ。

もちろん、不安はないと言ったら嘘になる。

小学生や、中学生の頃のように、そのうちまた突き放されて、ひとりぼっちになるんじゃないかと思い悩むときもあるけれど……。