「……っていうか、俺もアンタに一応、お礼言っとく」
「え?」
「このプリントが第三音楽室にあるかもしれないって……アンタ、その可能性に気付いてたのに、言わなかったろ。それって、アンタがここを大切に思ってるからってだけじゃなくて、俺のためでもあっただろ」
「あ……」
そう言って、私から目を逸らした陸斗くんは、小さく「ありがとう」と呟いた。
なんで、わかったんだろう。
改めて、すごいなぁと感心してしまう。
「……っていうかもう、バレたくないなら、いっそ、変な噂でも流すか」
「変な噂?」
唐突な言葉に首をひねれば、陸斗くんは何故か面白そうに小さく笑った。
「──第三音楽室。あの場所に他人を寄せ付けないようにするなら、いっそのこと、リュウあたりに頼んで、幽霊が出るとか適当な噂を流すとか」
まさか、そんなこと。
だけどちょっと面白そう……なんて思ってしまうのは、彼がらしくないことを言うからだ。
「なんか、そんな冗談言うの陸斗くんらしくないね?」
「そうか? そもそも冗談でもなんでもないけど」
「えー。でも、どんな幽霊の話にするの?」
「そうだなぁ。たとえば、好きな奴がいるのに告白できずに死んだ、女の幽霊が出るとかなんとか、そんなところで──」
と、そこまで言った彼は窓の外へと目を向けて、言葉を切った。
視線の先──窓の向こうに見慣れた人物を見つけて、私達は思わずその場で足が止まる。
「……朝陽?」
視線の先には、私達と同じ、制服に身を包んだ朝陽がいる。
校門に続く道を真っ直ぐに……朝陽は凛と背筋を伸ばして、歩いていた。