「どうせ見るなら、いい夢見ろよ」

「いい夢……?」

「悪いことばっかり考えてる暇があったら、楽しいことでも考えてろってこと」


そこまで言って、陸斗くんは小さく笑った。

再び胸がドキリと飛び跳ねる。

楽しいこと……確かにそのほうが、毎日は楽しくなるだろう。

何より陸斗くんが、未だにADHDについて知ろうとしてくれていたことが嬉しくて……つい、顔が綻んでしまった。


「っていうか、アンタ、そのプリント。今から教室に持っていくんじゃないのかよ」

「あ……」


またぼんやりと考え込んでいた私は、言われて改めて、手の中のプリントに気が付いた。

そうだ、そうだった。また忘れないうちに、このプリントを教室に持っていって……。机の中に入れておき、明日の朝イチでみんなに配ろうとしてたんだ。


「ハァ……。明日の朝、プリントのこと、俺からアンタに声掛けてやるよ」

「え……」

「また忘れたら後味悪いだろうが。っていうか、もう面倒だから一緒に持っていってやる」

「へ……い、いいよ! 大丈夫だよ! それくらい、今度こそちゃんとやれるから!」


慌てて断ると、苛立たしげに舌打ちを返された。


「いいから早く、プリント貸せ。結構、量があって重いだろ」

「……っ」


おもむろにピアノ椅子から立ち上がり、真っ直ぐに歩いてきた陸斗くんは私の手からプリントの束を奪い取った。

そのまま音楽室の扉を開けて、さっさと一人で行ってしまう。


「ま、待って! 陸斗くん! 私も半分、持つから!」


足の長い彼を、慌てて必死に追い掛けた。

彼と私では足のコンパスの長さが違う。

急いで隣に並ぶと、溜め息と一緒にプリントの三分の一を渡される。