「それとも山田くんの言うとおり、中身のないお説教で貴重な一時間を潰すつもりですか?」
彼女の言葉に先生はカッと顔を赤く染めると、「今日は自習だ!」と言い残し、足早に教室をあとにする。
残されたクラスメイトたちは突然の自習宣言に目を丸くしてから、それぞれに肩の力を抜いて笑いだした。
今……一体、何が起きたのだろう。
私は今、何をしてたの? 何を見て、何を聞いた?
目の前で起きたことのすべてが、私にはにわかに、現実だと信じられなくて……。
「ちょっと可哀相だけど、スッキリした。あの先生、前から、やたら生徒を贔屓するし、無駄に高圧的だから……いつかガツン!と言ってやりたいと思ってたんだよね」
頬杖をつきながら、あっけらかんと言ったのは、成績上位の女の子──日比野(ひびの)さんだ。
普段はおしとやかで品のある、彼女の口から出た言葉とは思えず、つい自分の耳を疑ってしまう。
「っていうか、頭のネジが壊れてんのは、お前だっつーの。良い大人が、言っていいことと悪いことの区別もつかないのかよ」
カラカラと笑いながら、クラスでも比較的目立つタイプの男の子──石上(いしがみ)くんが、息を吐いた。
彼は続けて、「でも、詰め寄られたときはビビった〜」と零して、手に持った携帯電話をポケットへと滑らせる。
「あ、あの……」
とうの私は、ただ立ち竦んだまま動けなかった。
状況が未だに整理しきれずに、頭の中は混乱している。