「なぁ、どうにか言ったらどうだ!」
数学の先生は苛立ちで声を荒げ続ける。
私が第三音楽室にプリントを置き忘れたと言えば、この先生は必ず、「どうしてそんなところに行ったんだ」と、聞くだろう。
そこでまさか、あそこが私のお気に入りで、大切な場所なんですとは言えない。
そんなことを言ったらお説教されることが増えるだけだし、何よりこの先生は、"勝手に音楽室に入る生徒がいる"と言って、第三音楽室に鍵でもかけてしまいそうだ。
……あの場所は、唯一、私が心落ち着ける場所だから。
私が私でいられる、大切な場所。
だからこそ第三音楽室という場所を、必要以上に人前で口にするのは嫌だった。
「月嶋ぁ、いい加減にしろよ?」
先生がイライラした様子で、再び強く机を叩いた。
反射的に再度肩を強張らせてしまったけれど、やっぱりどう答えていいか、わからない。
……あそこは、私にとっても大切な場所だけど、今は、陸斗くんにとっても必要な場所なのだ。
陸斗くんは、昼休みも放課後も、あそこでよく横になっている。
寝ているときもあれば、ただ外を眺めているときもある。
彼はハッキリとはいわないけれど……多分、陸斗くんにとっても第三音楽室は大切な場所なんだ。