「……傷付けるなよ」 「は……?」 「絶対に、傷付けるな。それだけは約束しろ」 耳に届いたその声は、私の鼓膜を何度も揺らした。 「菜乃花のこと。泣かせたら、俺はお前を許さない」 凛とした空気に通る、力強い声だった。 遠くで生徒の誰かが誰かを呼ぶ、明るい声がする。 裏腹に、重い空気を全身で感じながら押し黙るしかなかった私は……。 「朝陽……?」 ただ、ひとり。 いつもより遠く見える朝陽の横顔を、声もなくして見つめていた。