「菜乃花のこと、ちゃんと理解してくれて……傷付けないやつなら、ここにいてくれていい」


言いながら朝陽は静かに、足元へと視線を落とした。


「昔からずっと、そう思ってるよ」


そのままモップを持ったまま、美術室へと入っていく。

取り残された私とリュージくんは、ぽかんとしてその背中を見送ることしかできなくて……。

──俺は、間に誰も入れたくないとか思ってない?

昔からずっと、そう思ってる……って、まさか朝陽が、そんなふうに思っていたなんて知らなかった。


「……なぁ、なのちゃん。朝陽と何かあった?」

「え?」


朝陽のいなくなった渡り廊下。

ほんの少しの静寂を破ったのはリュージくんで、私は反射的に彼を見上げた。


「いや……朝陽のやつ、朝からなんかボーッとしてて……。やる気がないっていうか、元気がないって言ったら大袈裟かもしれないけど、なんだか少し変だから」


思わずドキリと鼓動が跳ねた。

リュージくんの言葉に思い当たる節は、朝のあのやり取りのことしかない。