本当なら朝陽の言葉は嬉しいはずなのに……どうしてか、心は少しも浮き上がらない。
空っぽになった手は行き場をなくして、そっと握り締めるしかなかった。
私達の間を駆け抜けた海風。
遠くで聞こえる電車の音を聞きながら、私達は言葉をなくしたまま昇降口までの道のりを並んで歩いた。
* * *
「それでさ、弟がさぁ! もう、すごい泣くんだよ。体育が苦手だから、学校行きたくないって!」
第三棟の、渡り廊下。
今日が特進科と合同で行われる課外活動最終日だったことを忘れていた私は、スケジュール表を見て冷汗をかいた。
「でも、弟の友達が、すごい良いやつでさぁ。嫌がるアイツを、いつも根気強く待っててくれるんだ。無理強いするわけでもなく、弟が自分からやるって言うまで付き合ってくれて」
モップの柄の上に顎を乗せながら、感心したように頷くリュージくんには年の離れた弟くんがいる。