「陸斗くんだよ」
「陸斗?」
「うん。ほら、前に朝陽も第三音楽室で会った、私の隣の席の──」
と、そこまで言って、口を噤んだ。
……そうだ。あの時、朝陽と陸斗くんはすごく険悪な雰囲気になったんだ。
最低最悪な、ファーストコンタクトだったのだ。
陸斗くんが今、朝陽のことをどう思っているのかは、わからない。
けれど、少なくとも朝陽の中では陸斗くんに対する印象は、最低最悪なままだろう。
「あ、あのね! 陸斗くん、あの時はあんな感じだったけど、話してみると実は良い人なんだよ!」
慌ててフォローを試みたものの、何を言えば朝陽の中での陸斗くんの印象が変わるのか、わからない。
陸斗くんとは相変わらず、教室では積極的に話しをするわけではないのだ。
だけど、私が何か忘れ物をした時や、授業で追いつけない部分があると、それとなくフォローしてくれるようになった。
隣の席から必要なものを貸してくれたり、授業の要点を書いたメモをくれたり。
前に、リュージくんが陸斗くんの過去を話してくれたことがあったけれど、陸斗くんは今でも根は優しくて、情に熱い人なのだと思う。