「この、"君"が示すものは何かってやつ。君って聞くと人を示してるのかと思うけど、これは夢の中の話だから作者は別の意図があって──」
言いながら陸斗くんが、ノートの前に開いた教科書へと筆を走らせていく。
男の子だけど、整った綺麗な字。
長い指に、女の私が見ても綺麗な爪。
陸斗くんはわかりやすいように要点を丸で囲んで、更に注意すべき部分は線を引いてまとめてくれた。
そうしてふと筆を止めると、ペン先でトン、とノートを軽く叩く。
「だから、この問の答えは、こっちになる」
「……すごい」
「……は?」
「陸斗くん、なんだか先生みたいだね」
思わず感嘆の声を漏らした私を前に、陸斗くんが驚いたように目を見開いた。
再び視線と視線が交差して、辺りが静寂に包まれる。
「陸斗くん?」
「……っ」
と、ペンを置いて弾かれたように立ち上がった陸斗くんは、私から一歩、距離を取った。
眉根を寄せて、唇を噛んだ彼はそのまま歩を進めると、ピアノ椅子へと無造作に腰を下ろす。