「そんなところにいつまでも突っ立っていられると、鬱陶しいだけだから」
心底うんざりとした声で糾弾されて、私は何故か恐縮しながら第三音楽室に足を踏み入れることとなった。
鬱陶しいって……。そんな言い方、しなくてもいいのに。
心ではそう思うものの、頭の中では先程リュージくんから聞かされた陸斗くんの話が渦巻いている。
小学生の頃、ご両親が離婚した陸斗くん。
今時、別に珍しい話ではないけれど、自分の親が離婚すると聞いて、当時小学生だった彼は一体何を思っただろう。
……寂しい思いも、したかもしれない。
お父さんやお兄ちゃんに会いたいとか、そんな風に思って泣いたこともあるかもしれない。
そう思うと、勝手に過去を聞いてしまった罪悪感も相まって、なんだか陸斗くんを直視することができなかった。
「あ、あの……私はまた、課題をやるだけだから。どうか、私のことはお気になさらずに。陸斗くんは、寝るなり起きるなり、好きにしててください」
それだけ言って、ペコリと頭を下げると、私はお気に入りの席へと歩を進めた。
多分、普通ならここで気まずい空気が流れるのだろう。
けれど席について机の上に教科書とノートを並べ、一度だけ深く深呼吸をすると不思議と心は落ち着いた。