「それじゃあ、またな!」
私はリュージくんの広い背中を見送ってから、一人小さく息を吐き出した。
自然と、音楽室に向かう足が速くなる。
頭の中ではぐるぐると、たった今聞かされた陸斗くんの話が巡り続けていた。
* * *
「いつまでもそんなとこに突っ立ってないで、早く入れば?」
リュージくんと別れ、第三音楽室に向かった私は部屋の前で足を止めて、扉を開けることを躊躇した。
理由は、一つだ。──陸斗くん。
扉の硝子部分から、ひょっこりと中を覗くとそこにはやっぱり、陸斗くんの姿があった。
……どうしよう。
だけど悩んだのは、たった数秒。
不意に振り向いた陸斗くんと視線が交差して、なんとなく、逃げることに気が引けた。
陸斗くんが私から目を逸らす気配はない。
だからとりあえず、扉を開けて小さく会釈をしてみたのだけれど……。