「小さい頃のりっくんは、虫とか花とか植物とか好きだったなぁ。誕生日に買ってもらったっていう、すげー分厚い生物図鑑を持って、よく一緒に山とか海辺を探検したよ」
「そっか……」
「りっくんも、頭良かったんだぜ? 昔はよく、テストの点数競争したし。りっくんのお母さんがお菓子作りが上手くてさ。それでよく、テストのあとはご褒美って言って、美味しいクッキーご馳走になったな」
「おい、リュージ! そろそろ行くぞー!」
その時、先程リュージくんが荷物を手渡した男の子が、数メートル先からリュージくんのことを呼びつけた。
「早くしないと、提出に間に合わねぇよ!!」
「あ……っ、おお! 悪いっ! 今行く!」
手を上げて答えたリュージくんは、申し訳なさそうに眉尻を下げてから私へと向き直る。
「ごめん、なのちゃん。俺、そろそろ行かなきゃ」
「あ……うんっ! 私の方こそ、長々と話しちゃってごめんね! グループワーク、頑張ってね! 応援してるから!」
胸の前でグッと拳を作ると、リュージくんは太陽みたいな笑顔で笑った。
──胸に刺さった小さな棘が、じんわりとした痛みを広げて少しずつ身体の芯に埋まっていく。