「う、ううん……! どうしたってわけでもないんだけど……実は今、教室で陸斗くんと席が隣同士で」
「りっくんと、なのちゃんが?」
「うん……。それで、陸斗くんのことイマイチよくわからないから、リュージくんに聞いてみようかなぁって思ったんだけど」
言いながら、段々と語尾が小さくなった。
陸斗くんのこと。なんとなく、知りたいと思ったのは本当だ。
彼と二人きりになった時間は、第三音楽室で過ごした、ほんの僅かな時間だけ。
相変わらず教室では目も合わないし、話さない。
席が隣だというのに私達の間には、目には見えない大きな壁がある。
「特別、陸斗くんと仲良くなりたいってわけでもないんだけど……、でも……」
陸斗くんだって、きっと私と仲良くしようだなんて思っていない。
だけど私は、彼と話していると不思議と心が軽くなった。
ホッとするというより……羽根が生えて、抱えている悩みがどこか遠くに飛んでいくような気持ちになるのだ。
彼の言葉と存在そのものが、まるであの……第三音楽室そのもののようだと、私は、そんなことまで考えた。