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「ねぇ、朝陽。今日はね、休み時間にリュージくんが遊びに来たんだよ!」
「リュージが?」
「うん! なのちゃん、元気か〜って。昨日も会ったばっかりでしょって言ったら、そうだっけ?って笑ってた!」
学校を出て駅までの坂道を下ると、潮風が鼻先を掠めた。
海の上で、ゆらゆらと揺れる太陽。どこまでも続いている線路と、深緑色の電車。
一瞬、今すぐに走り出したい衝動に駆られたけれど、それを察したらしい朝陽の手がこの場に私を押し留めるように強く握られる。
慌てて隣を見上げると、ビー玉みたいに綺麗な瞳が私を映して小さく笑った。
「今日は、忘れ物しなかったか?」
赤の他人が聞いたら他愛もない会話の中の、何気ない質問だ。
私は、ほんの少し宙を見上げて考えてから、足元に転がる小さな小石を遠くへ蹴った。