「だから、はじめてだったの」
「はじめて?」
「必死に勉強して、この高校に入って、第三音楽室を見つけて……。朝陽を待ちながら、ここでなんとなく、宿題のためにノートを広げた。そしたら不思議と集中できて……教室や家とか、どこにいるときよりも勉強が捗ったの」
どうして私が、この場所でなら勉強に集中できるのか、本当の意味での理由はわからない。
結局、テストのときにはみんなと一緒に普段の教室で受けるから、ここで集中できたところで意味はないと言われたら、それまでだ。
……それでも。
「ここにいるときは、なんだか、私は理想の自分でいられるような気がするの」
──息苦しい世界から切り離された、この場所でなら。
「私は……私のままでいいんだ、って。誰かに言われなくても、自然と、そんなふうに思えるんだよ」
そっと、陸斗くんを見上げて微笑むと、彼は何故か眉根を寄せて固まった。
そのまま数秒見つめ合ったのち、不意に、視線を逸らされる。