『俺は、菜乃花のそういうところ、好きだよ』

だけど朝陽は泣きそうな顔で笑ってから、凛と通る声で、言ったんだ。

『そういうところって、どういうところ?』と、思わず聞き返した私の髪を撫でた朝陽は、ただ、柔らかに笑うだけだった。

あのとき、『好きだ』という言葉にドキドキしたのは多分、私だけだろう。

朝陽にとっては、家族やペットに言う『好き』と同じ意味だったのだと思う。

何故ならあとにも先にも、朝陽の口から私に向けて『好き』だという言葉が出たのはあの日だけ。

あれから約二年が経とうとしている今でも、朝陽は何も言わずに……私のそばに、いてくれる。


「──ペンだこって、よっぽど長い時間ペンを持ってないとできないだろ」

「え……」

「普通に勉強してるくらいじゃ、そんな硬そうなの、できない。だから、アンタがアンタなりに頑張ってるんだってことは、その指を見たらわかる」


言いながら、そっと目を細めた陸斗くんがあの日の朝陽と重なった。