そりゃあ、そもそもこの場所は学校のもので、私だけの音楽室ではないけれど。
それでもこの場所は私にとっても、とても大切な場所だった。
「……おい、何してんだよ」
私は陸斗くんを無視して歩をすすめると、お気に入りの席──窓際の、一番前の席に腰を下ろした。
そうして鞄の中から教科書とノート、ペンケースを取り出すと、乱雑に机の上へと叩き置く。
「この場所は、私にとっても大切な場所なの。私のことは、どうぞお構いなく。ここで静かに、課題をやるだけだから」
言い切って、フンッ!と鼻を鳴らすと、陸斗くんから目を逸らした。
陸斗くんに指図される覚えはないし。
私が彼に気を遣う理由もないから、私は自分がしたいようにするだけだ。
それでも私のことが目障りだって言うなら、陸斗くんが音楽室から出ていけばいい。
「……アンタって、性格わる」
「陸斗くんに言われなくない」
条件反射で言い返すと、旋毛の先で彼が小さく笑った気がした。