「あらあら、まだこんなところに立ってたの?寒いから早く向こうで暖まりなさい」
おばあちゃんは急いでリビングに向かって薪(まき)ストーブに火をつけた。家を出る寸前まで付いていただろう薪はまだ煙がくすぶっていて、部屋も寒くはない。
「まだそれ使ってたんだ」
それと、私はコートを脱ぎながらストーブを指さした。
「ここら辺の人はみんな薪よ。毎日付けっぱなしだから灯油だとお金がバカにならないしね」
たしかにおばあちゃんの家の周りには煙突屋根の家ばかり。若者はみんな不便じゃない街へと行ってしまうし、就職と同時にこの町を離れてしまうから、近所に住んでる人はほとんど高齢者ばかりだ。
「でも実は薪もスーパーで買ってるのよ。昔は裏山で拾ってきたけど、あの傾斜はなかなかね」
おばあちゃんはそう言ってストーブの上にやかんを置いた。
そういえば小さいころはよく薪拾いを手伝っていた。
拾ってきた薪を家の裏手で割る作業は小さかった私には上手くできなくて、その代わりにおじいちゃんがあまりの速さで薪を割るから幼いながらに感動してたのを思い出す。
結局、薪割りが上手くできないままこの町を離れて、その1年後におじいちゃんは亡くなった。
だから私は今も薪が割れない。
スーパーで使いやすく形揃えてある薪は買えるけれど、教えてもらえばよかったと取り戻せない時間の後悔はスーパーでは手に入らない。