それから私は、長かった髪の毛を切った。

お母さんは何度も大樹の面影を私に重ねて、男の子が着るような洋服ばかりを買ってきて私に着せた。


おばあちゃんはそんなお母さんを見て「小枝が可哀想でしょう!」と叱ったけれど、「可哀想なのは大樹よ!」と反論されるとそれ以上なにも言えなくなっていた。

お母さんはきっと、大樹を失って、もともと不安定だった心が壊れてしまったんだと思う。

前はお父さんへの執着を捨てきれず、今は大樹の死を受け入れられずにいる。


お母さんは私の名前を呼ばなくなった。

その代わりに、私を通して大樹のことを見ていた。


髪を短くして、男の子の服を着て、大樹が背負っていた黒いランドセルで学校に行くうち、みっちゃんも智子ちゃんも離れていった。

近所の人たちは「あの家はおかしい」と言って、事故の同情から好奇の目に変わった。


悲しかった。苦しかった。
切なかった。もどかしかった。


それでも大樹への罪悪感が消えることはなくて、私は存在してはいけないんじゃないか、このまま私を捨てて大樹として生きていくほうがいいんじゃないか、と自問自答を続けていた。

そんな押しつぶされそうな毎日を過ごしていく中、どうしようもなく逃げ出したくなって、私は学校帰りに当てもなくバスへと乗り込んだ。