***
それから、大樹がいない生活がはじまった。
葬儀とお通夜が終わり、大樹は砂のような骨になった。
だけど四十九日の法要が終わっても、まだ幼くてお墓に入れるのは可哀想だからと奉納はせず、そのまま居間に置かれることになった。
白い覆い袋に入れられた小さな骨壷。それが今の大樹の姿。いつもうるさくて鬱陶しかった大樹はどこにもいない。
お母さんは、昼でも夜でも仏壇の前でぼんやりとすることが多くなった。それはまるで魂がない抜け殻のようで、大樹の骨壷を抱きしめながら一日を過ごすこともあった。
喋らないし、食べないし、眠らない。
お母さんにとって大樹を失ったことは、心を失ったことと同じなのだろう。
そんな日々が続いたある日。大樹の洋服をおばあちゃんと整理していた時に、私は大樹とよく一緒に着まわしていたTシャツを発見した。
「うわ、懐かしい」
それは淡い水色のTシャツ。胸についているワンポイントのワッペンが特徴的で、洗濯しすぎて縒(よ)れてしまっているけれど、今でも愛着がある。
「あら、それよく大樹が着てたわよね」
「これ元々は私のなんだよ。それなのに大樹が気に入っちゃって。ほら、大事にしてたのに、ここにシミが」
なにで汚したのかは分からないけれど、大樹はガサツだったから食べ物を溢したに違いない。
「ふふ、小枝はお姉ちゃんだもんね」
「あいつを弟なんて思ったことないよ」
「でも、大樹はそう思ってたんじゃない?口では言わないけど、小枝に頼って甘えてたでしょ。小さい時も幼稚園に行かないって駄々をこねる大樹を小枝がよく引っ張ってたもの」
「……そんなの覚えてない」