10回ウラ、ヒットは出たがつながらず、依然として6-6のままで試合は継続した。
得点がふたたび動いたのは11回表、ツーアウト一二塁からだった。六番がライト後方へ二塁打を放つと、ランナーがひとり生還し、1点追加となって、スコアは6-7に変わった。
その後はなんとか抑えきったが、ウチが1点を追いかける状態での攻守交代となった。
八番からの打順。相手ピッチャーも疲労がたまっているだろうが、強豪校のエースからそう簡単にヒットは打たせてもらえない。八番・九番どちらもセカンドゴロに倒れ、あっという間に追いこまれてしまう。
そして打順はふたたび先頭へ戻った。
ツーアウト、ランナー無し。
この大ピンチで打席に現れたのは、一番ショート・倉田朔也くんだ。
彼ならなにかしてくれる。きっと奇跡を起こしてくれる。
そういう期待がスタンド全体に渦巻いていた。チャンステーマが割れんばかりに鳴り響いている。それに混じって、悲鳴のような、祈りのような声がいくつも上がる。
ぜったい、ぜったい大丈夫。
朔也くんなら打てる。次につなげられる。
彼の選球眼はやはり抜群だ。確実にボールを積み重ね、ド真ん中はファウルでねばる。投手との耐久レースが続いた。そしてついに、銀色のバットは振り抜かれたのだった。
「走れっ!!」
和穂がガラガラの声で叫んだ。
大きくない当たりだった。後がない。もう、走るしかない。
三塁へ向かっていく白球を、待ちかまえていた戸田くんが難なく拾いあげる。一塁へ送球。完璧なコントロールだった。ファーストグラブがしっかりとつかむ。ほぼ同時に、バッティンググローブの指先が土を巻きあげながら滑りこんでくる。
想いのこもったヘッドスライディングだった。
「――アウト!」
俊足のリードオフマンがこの夏はじめて見せたヘッドスライディングは、同時に最後のプレーとなった。