市川は抑えこむタイプのピッチャーだった。その後のバッターは市川の剛速球の前に次々と倒れていき、中盤、5回を終えるころになっても、挑戦者チームは1点も取らせてもらえない状況だった。
それに対し一軍チームはすごかった。もう、バンバン打つ。ドンドン走ってくる。点差があるにもかかわらず送ってくる。それでも監督さんの目は終始厳しく光っていて、調子が少しでも悪ければすぐにレギュラーを外されるということ、選手たちはじゅうぶんわかっているのだと思った。
春日は4番の仕事をキッチリこなしていた。少しでも隙を見せれば大きな当たりをぶちかます。キャッチャーとしても、バッターとしてもかなり有能だ。たぶん、キャプテンとしても。
普段の春日、ゆるーい雰囲気の彼を知っているので、妙に感心してしまった。和穂は春日に打順がまわってくるたびに胃が痛いと言っていた。そして打つたびにまるでホームランが出たかのように大騒ぎしていた。
5番の涼はまずまずといったところか。あとで通算の打率を聞いてやろうと企んでしまう感じ。そんで、3割5分あれば褒めてやろうという感じ。
ただ、いちおう5番には居座っているので、当たれば強い。必要となればしっかりバントも決める。いつもはふらふらとしたクラゲ男のくせに、堅実なヒッティングをするやつだと思った。
そして1番、リードオフマンの倉田くんは、とにかく走って揺さぶってくる選手だった。
うすうす気づいてはいたけど、ものすごい俊足。リードがいちいち冗談かってくらい大きい。だから何度も牽制されるのに、ぜったい刺されない。そしてバッテリーが諦めたころ、やっと走るのだ。
投手にとってはいちばん塁に出したくないランナーだろうと思った。うしろに倉田くんがいると、たとえ打席に春日が立っていてもぜんぜん集中できないもん。おにいも、走ってくるやつがいちばん嫌だと言っていた。
攻撃でも、守備でも、一瞬だって目が離せない。まばたきのあいだにもどこか違う場所へ行ってしまうような気がして。
小柄だし、華奢だし、体格的には決して恵まれていると言えない選手かもしれない。それでもそれを上まわるスピードと反射神経があるので、体の小ささなんかこれっぽちも感じさせない、すごい選手だ。
ほんとに、倉田くんってすごいよ! まさにセンスのかたまり。ひとつひとつのプレーにも華があるし。
でも、彼がこんなにも目を引く存在なのは、きっとプレーのせいだけではないのだろう。
あんなに楽しそうに野球する選手ってそうそういないもの。
まるで野球を覚えたばかりの少年のように、心からうれしそうに白球を追いかける姿は、新鮮で、胸がドキドキした。はじめておにいの試合を見に行った日に感じたのと、とてもよく似たドキドキだった。