そう言って、ばあちゃんはぽつぽつと当時のことを語りだした。

萌音の両親が亡くなった直後、おばあちゃんはショックが大きすぎたのか、萌音のことが視界に入っていないような日が続いた時があった。
呼びかけても、泣いても、笑っても、何も反応しなかった。できなかった。
ただ、生きるために必要なことを、機械的に用意する日々。
心にぽっかり空いた穴を埋められずに過ごしていた。

自分の年齢から平均的な寿命を逆算して、私が二十歳になるまで生きていられるかどうかが不安で堪らない。
両親がいないことでいじめられたらどうしよう。この子の口に合う料理を作ってあげられるかしら。
不安なことが次から次に出てきて、全く消化されずに溜まっていく。
自分は泣きつく相手もいない。

まだ幼く、意思疎通も上手くいかないような萌音だけが残って、誰にもこの漠然とした不安を打ちあけることができず、不安な日々を過ごしていたらしい。

そんな風に、もぬけの殻状態だった時に、俺が突然転んだ萌音を背負って現れたらしい。

「ばあちゃん、ちゃんと萌音を見て。ちゃんと萌音の目を見て話してあげて。萌音は、必死におばあちゃんの視界に入ろうとしてたよ。目を見てあげるだけでいいんだ。それだけで、大分萌音は安心できると思うって……」
「俺、そんなこと言ったんですか……」
「そういえば、もうちゃんと目を合わせて話したのはいつやっけ。おばあちゃんそれ聞いてすごくはっとしたんよ。そしたらそこには、転んで泣いているもうちゃんがいたけん。それを見て、私はいったい今まで何をしていたのかという気持ちになってね……」
「あんまりよく覚えていないですが……」
「ばあちゃん、あの時のあお君に本当に救われたけん。だから、あお君が家に来てくれた時、本当にうれしかったんよ。この子が、もうちゃんを守ってくれるかもしれんって……この先も」

おばあちゃんの思いを聞いて、俺はより一層萌音を大事にしなければ、という気持ちになった。
人は大事な人を失ったとき、大切な誰かがそばにいてくれることが、いかに重要なことなのか。
おばあちゃんは、自分の息子とお嫁さんを失った時、幼い萌音しかいなかった。守るべき相手しかいなかった。
それは想像以上に不安で先の見えない日々が続いただろう。

でもそれを乗り越える小さなきっかけを自分が作っていたことを、俺は誇らしく思った。