私は、もう心配させんでよ、と言ってばあちゃんの布団を軽く叩いて、丸椅子に座り込んだ。
ばあちゃんは、しわしわの、でも温かい手で私の拳を包み、ごめんねと呟いた。

両親が亡くなった直後、ばあちゃんはショックが大きすぎたのか、私のことが視界に入っていないような日が続いた時があった。
呼びかけても、泣いても、笑っても、ばあちゃんは何も反応してくれない。
ただ、私が生きるために必要なことは、機械的に用意してくれた。
私は、ばあちゃんの目に映り込みたくて、必死に絵を描いたり、お手伝いをしたり、時にはわざと転んだりもした。
こんなに小さな私を置いて、自分の息子とお嫁さんが急に先立ってしまったら、不安になって当然だ。
後から聞いた話だけど、ばあちゃんはあの時、自分の年齢から平均的な寿命を逆算して、私が二十歳になるまで生きていられるかどうかが不安で堪らなかったらしい。
この子を残して先には逝けない。両親がいないことでいじめられたらどうしよう。この子の口に合う料理を作ってあげられるかしら。
不安なことが次から次に出てきて、全く消化されずに溜まっていく。
そうしたら、肝心の私のことが見えなくなってしまったらしい。
ばあちゃんはあの時のことを、今でも時々謝ったりする。私はその度に、ばあちゃんに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
私は、ばあちゃんに感謝の気持ちしかないよ。
ばあちゃんがいなかったら、私、本当に生きていけなかったもの。

「ばあちゃん、長生きしてよね……。葵みたいに突然いなくなったらもう耐えられんよ私……」
「だいじょぶ、だいじょぶやけん。ばあちゃんもうピンピンしとるけん、ほら」

こんな時に、どうして葵はそばにいてくれないんだろう。
このままばあちゃんと永遠に会えなくなったら、葵はどうするつもりなの?
ばあちゃんが、本当の子供のように葵を愛していることを知らないの?
本当に、腹が立つよ。偶然会ったら一発殴ってやりたい。
指の震えが止まらなくて、私は、祈りをささげるみたいにして両指の動きを抑えた。

「もうちゃんは寂しがり屋だから、ばあちゃんいなくなったら心配やけ……」
「いなくなるとか言わんでよっ」
私が本気で怒ると、ばあちゃんはまたごめんねと謝って、私の手を撫でた。
それから、穏やかな口調で、とある提案をした。